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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19506号 判決

主文

一  被告端場義松は、原告赤間秀男に対し金一三二〇万九七二三円、同赤間悦子に対し金一四五〇万九七二三円及び原告赤間秀男の内金一二〇〇万九七二三円、同赤間悦子の内金一三二〇万九七二三円に対する平成四年八月三日から支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

二  被告共栄火災海上保険相互会社(以下「被告共栄火災」という。)は、第一項の判決が確定した時は、原告赤間秀男に対し金一三二〇万九七二三円、同赤間悦子に対し金一四五〇万九七二三円及びこれに対する判決が確定した日の翌日から支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

三  原告赤間佳代子、同赤間理加の請求及び原告赤間秀男、同赤間悦子のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告赤間佳代子、同赤間理加に生じた費用は同原告らの負担とし、その余の費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

理由

第一原告らの請求

被告らは各自、原告赤間秀男に対し金二四四三万七五〇〇円、同赤間悦子に対し金二五七三万七五〇〇円、同赤間佳代子に対し金一六五万円、同赤間理加に対し金一六五万円及び原告赤間秀男の内金二二二三万七五〇〇円、同赤間悦子の内金二三四三万七五〇〇円、同赤間佳代子の内金一五〇万円、同赤間理加の内金一五〇万円の各金員に対する平成四年八月三日から支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車に同乗していて、対向してきた自動車と衝突して死亡した者の相続人らが他方の自動車の所有者とその任意保険会社に対し自賠法三条及び自家用自動車保険契約(以下「PAP保険契約」という。)に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

赤間英敏は次の交通事故により死亡した(以下右事故を「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成四年八月二日午前〇時三〇分ころ

(二) 場所 北海道石狩郡石狩町大字生振村三七四番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 被害車両 普通乗用自動車(札幌五一す二九三三号)

運転者 小池祐二

同乗者 赤間英敏

(四) 加害車両 普通貨物自動車(札幌四六せ三〇八三号)

運転者 被告端場義松

(五) 本件事故により赤間英敏は、全身打撲、肝臓、腎臓、十二指腸破裂による出血性シヨツクの傷害を負い、これにより収容先である札幌東徳洲会病院において同日午前四時四〇分ころ死亡した。

2  被告らの責任原因

被告端場義松は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものである。

被告共栄火災は、被告端場との間でPAP保険契約を締結しているので、自家用自動車保険普通保険約款六条に基づき直接原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

3  相続等

原告赤間秀男、同赤間悦子は赤間英敏の父母であり、各二分の一ずつ赤間英敏が本件事故により被つた損害を相続した。

4  損害の填補

原告赤間秀男、同赤間悦子は平成四年一〇月二一日被告端場の自賠責保険会社である東京海上火災保険株式会社から三〇〇〇万円を受領し、一五〇〇万円宛自己の損害に充当した。

二  事故態様

甲第三号証の一ないし一八によれば、被告端場が加害車両を運転し、事故現場を八幡町方面から東茨戸方面に向かい、時速約五〇キロメートルで進行するに当たり、前方左右を注視し、進路を適正に保持しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、道路左側の建設現場に視線を移して脇見をし、前方注視を欠いたまま前記速度で進行した過失により、自車を対向車線に進入させ、対向進行してきた小池祐二運転の被害車両に衝突させ、英敏を死亡させたことが認められる。

三  本件の争点は損害額及び被告会社に対する損害額について事故日から遅延損害金の請求ができるかどうかである。

第三争点に対する判断

一  逸失利益 三六〇一万九四四七円(請求額四八四七万五〇〇〇円)

英敏は、北海道で成長し、本件事故当時満一八歳(昭和四九年三月一〇日生)の健康な男子であり、平成四年五月一日から岩見沢市所在の従業員約一〇〇名の株式会社道央通商に運転助手として勤務し、月額約一七万円の収入を得ていた。そして原告らもすべて北海道に居住している(甲第一、二号証、第四号証、原告赤間悦子本人)。

原告らは、平成三年賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者の全年齢平均賃金五三三万六一〇〇円を基礎として逸失利益を算定すべきであると主張するが、英敏及び家族の居住場所、英敏の勤務先等考慮すれば、平成三年賃金センサス第四巻第一表都道府県別の北海道の企業規模一〇ないし九九人の男子労働者の平均賃金三九六万五〇〇〇円を基礎として算定するのが相当である。

右事実によれば、英敏は、本件事故にあわなければ、その後四九年間にわたり稼働可能であり、右稼働可能の期間中平成三年賃金センサス第四巻第一表都道府県別の北海道の企業規模一〇ないし九九人の男子労働者の平均賃金三九六万五〇〇〇円を下らない年収を得ることができ(入社三か月なので、実収入で逸失利益を算定するのは相当でない。)、全期間について生活費として収入の五割を必要とし、年五分の割合による中間利息の控除はライプニツツ方式によるのが相当であるから、以上を基礎とし、本件事故当時の原価を算出すると三六〇一万九四四七円(円未満切捨。以下同じ。)となる。

(計算式)

三九六万五〇〇〇円×(一-〇・五)×一八・一六八七=三六〇一万九四四七円

二  慰謝料(請求額・英敏二〇〇〇万円・原告赤間秀男、同赤間悦子各三〇〇万円・同赤間佳代子、同赤間理加各一五〇万円)

本件事故の態様、英敏の年齢等一切の事情を斟酌すると、英敏の慰謝料は一六〇〇万円が相当である。

原告赤間秀男、同赤間悦子は、英敏の父母であり、慰謝料はそれぞれ一〇〇万円が相当である。

民法七一一条は、不法行為による生命侵害があつた場合、被害者の父母、配偶者及び子が固有の慰謝料を請求しうることを認めているところ、文言上同条に該当しない者であつても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は同条の類推適用により固有の慰謝料を請求しうるものと解される(最判昭四九・一二・一七民集二八―一〇―二〇四〇)。原告赤間佳代子(昭和四七年一〇月一〇日生)は、英敏の姉、同赤間理加(昭和五〇年四月二三日生)は、英敏の妹であり、英敏と同居していたことが認められる(甲第四号証、原告赤間悦子本人)が、固有の慰謝料請求権を有するものとはいえず、同人等の請求は失当である。

三  葬儀費用 一二〇万円(請求額一二〇万円)

原告赤間悦子は、英敏の葬儀を執り行い、一二〇万円を下らない費用を要し(甲第五号証の一ないし三〇、原告赤間悦子本人)、右金額が本件事故と相当因果関係があるものと認められる。

四  相続及び損害の填補

原告赤間秀男、同赤間悦子は英敏の逸失利益、慰謝料を各二分の一宛相続したから原告赤間秀男の損害は、二七〇〇万九七二三円、同赤間悦子の損害は、二八二〇万九七二三円となる。

そして同原告らは、一五〇〇万円宛各自の損害に充当したことは争いがないから原告赤間秀男の損害残額は、一二〇〇万九七二三円、同赤間悦子の損害残額は、一三二〇万九七二三円となる。

五  弁護士費用(請求額・原告赤間秀男、同赤間悦子各二三〇万円)

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、原告赤間秀男につき一二〇万円、同赤間悦子につき一三〇万円と認めるのが相当である。

六  被告会社に対する請求

原告らは、被告会社に対し、事故の日から遅延損害金を請求しているが、被告会社に対する請求は、自家用自動車保険普通保険約款六条に基づく請求であり、損害賠償請求権者の被保険者に対する判決が確定した時にその履行期が到来する将来の給付の訴えと解されるから、遅延損害金は被告端場に対する判決が確定した日の翌日から請求できるものである。

(裁判官 大工強)

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